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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)9034号 判決

原告

中西賢司

ほか一名

被告

松江聡

主文

一  被告らは、各自、原告らそれぞれに対し、金八六三万四六二〇円及び内金七八五万四六二〇円に対し、平成二年五月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを八分し、その一を原告ら、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告ら各自に対し、各自金一〇三八万五三一九円及び内金九五八万五三一九円に対する平成二年五月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動車同士の衝突事故によつて死亡した同乗者の遺族が、各自動車の運転者、民法七〇九条に基づき、保有者に、自賠法三条により、損害賠償を請求した事案である。

一  当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実

1  平成二年五月三日午後一〇時〇八分ころ、大阪市西成区千本北二丁目一〇番四一号先交差点(本件交差点)において、被告松江運転の普通乗用自動車(神戸五三め二七二二)(松江車)が北から南に向かつて直進していたところ、同車前部が、同所において、南方から東方に向け右折を継続中の被告小野運転の普通乗用自動車(なにわ五五い五六一四)(小野車)の左側後部に衝突し、小野車に同乗していた中西郁子(亡郁子)(ここまでは当事者間に争いがない。)が、衝突の衝撃によつて、路上に転落し、頭部を打撲し、脳挫傷の傷害を負い、平成二年五月七日に死亡した(被告小野及び被告会社との関係においては、当事者間に争いがない。その余の被告らとの関係においては、甲三よつて認められる。)。

2  被告小野は、小野車を運転し、本件交差点を、南から東方に右折するに際し、右折が禁止されていたのであるから、右折を差し控えるべき注意義務及びまた対向直進車との安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのに、いずれも怠り、時速約一〇キロメートルで右折進行したものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故による損害を賠償する責任がある(当事者間に争いがない。)

3  被告会社は、小野車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、本件事故による損害を賠償する責任がある(当事者間に争いがない。)。

4  被告渡邉は、松江車を所有し、これを自己の目的のため運行の用に供していた(当事者間に争いがない。)。

5  原告らは、本件事故に関する損害賠償金として、自賠責保険から、一人当たり八五〇万七二〇〇円受領した(当事者間に争いがない。)。

二  争点

1  被告松江の過失の有無及び被告渡邉の免責

(一) 原告ら主張

被告松江は、その進行方向の最高速度が時速四〇キロメートルと定められていたので、その速度を遵守する他、前方を注視して進行すべきであるのに、それを怠り、時速八〇キロメートルで、前方を注視しないで進行して本件事故を引き起こしたものである。また、被告松江進行方向の信号は、赤であつて、直進について青矢印の点灯はなかつたものであるのに、それに違反して進行したものであつて、その点においても過失がある。

(二) 被告松江及び被告渡邉の主張

被告松江の進行方向の最高速度は認めるが、その余の原告らの主張は否認ないし争う。

被告松江は、進行方向である前方の安全を十分確認し、時速六〇キロメートルをやや超える速度で進行していたところ、本件道路の中央分離帯部分には阪神高速道路の支柱、フエンス等があるため、視野が遮られ、小野車の存在した右前方は全く見えず、本件交差点は小野車の方から右折禁止であり、被告側からは対面する信号が赤で、直進と左折のみが青矢印であつた、対向車線からの右折車両があること等、被告松江としては、通常予想して運転する必要はなかつたのに、小野車は、一旦停止することもなく、突然右支柱の陰から飛び出してきたものであつて、被告松江は、衝突直前に至つてはじめて、被告小野車の先端を発見したものであるから、被告松江には前方不注視はないし、被告松江が小野車を発見できた時の松江車、小野車間の距離と、雨天時の制動距離を比較すると、被告松江が時速四〇キロメートルで走行していたとしても、本件事故を回避できなかつたものであるから、被告松江には、本件事故と因果関係のある過失はない。

右の事実の他、本件事故の発生に関し、松江車の構造上の欠陥、機能の障害等の有無は関係ないから、被告渡邉も免責である。

2  損害(特に、逸失利益算定に当たつての基礎収入)

第三争点に対する判断

一  被告松江の過失の有無及び被告渡邉の免責

1  本件事故態様

(一) 前記の争いのない事実に、甲五、七、八、一一ないし一七、同九、二〇の各一、二、乙一ないし四(但し、乙三、四のうち被告小野の現場供述部分は除く。)、六ないし一二を合わせ考えると、以下の事実が認められる。

(1) 本件交差点は、信号機によつて規制された、別紙一、二の概要の交差点であり、歩車道の区別があり、南北方向から左右の見通しは悪く、アスフアルト舗装の平坦な路面で、本件事故当時は、雨が降つていたため、路面は湿つていた。南北方向の最高時速は時速四〇キロメートルと規制されており、南方向から東方向の右折は禁止されていた(特に、乙三、九)。

(2) 被告松江は、松江車を運転して、南北道路を南進していたところ、別紙図面一〈ア〉の地点で、対面信号が赤色が直進及び左折方向について青矢印の指示がされていたのを見て、それまで時速六〇キロメートル位で進行していたところを加速し、時速八〇キロメートル位で進行していたところ、衝突位置の約一五・五メートル北側の同図面〈ウ〉付近で、同図面〈3〉当たりを進行していた小野車の先端を発見して、急ブレーキをかけ、減速したが、同図面〈エ〉において、〈4〉に進行していた小野車の左側面の後側に同車の正面を衝突させた(特に、甲九の一、二、乙三の被告松江の現場供述部分、乙一一)。

(3) 被告小野は、南方と亡郁子を乗せてタクシーである小野車を運転し、南北道路を北進していたところ、別紙図面二〈1〉付近で、南方に本件交差点で右折するよう指示されたが、本件交差点が右折禁止であることは知つていたものの、対向車線からの通行量が少ないことから、衝突することはあるまいと考え、右に方向指示しながら、同図面〈2〉あたりから右折を開始し、時速一〇ないし二〇キロメートルで進行していたところ、(2)記載の位置で松江車と衝突し、その衝突によつて、亡郁子と南方は、道路上に投げ出された(特に乙八ないし一一)。

(二) なお、被告小野の当初の供述である甲一〇の一ないし四及び乙三、四の被告小野の現場供述部分は、乙八ないし一一(後に前記の供述が、責任を逃れるないし軽くしようとする虚偽のものであつた旨自認した供述)に照らし信用できない。

(三) また、被告小野は、乙九の現場供述において、前記認定と異なる衝突地点を説明するものであるが、乙一〇、一一によると、衝突までの松江車の動向は知らなかつたものであるから、乙九の供述も正確なものとはいいがたい。

2  被告松江の過失

前記認定の事実からすると、被告松江が現実に小野車を発見した位置から小野車の距離は一五・五メートルであるが、小野車両側の衝突位置は左側面の後方部分であるから、被告松江が時速八〇キロメートルで走行せず、最高速度である時速四〇キロメートル以下で進行しており、発見後直ちにハンドル・ブレーキを適切に用いていれば、衝突地点以前で完全に停車することまではできなくとも、衝突地点通過時には、最早小野車両は東側に通過することができていたと推認するのが相当であり、また、万一、小野車両の後部に接触したとしても、その衝撃は、本件事故と比べものにならない極めて軽微なものとなり、亡郁子が、小野車両から飛び出すことはありえなかつたものであつたと認められるから、被告松江の前方不注視の過失の有無を判断するまでもなく、その速度違反の過失によつて、本件事故を引き起こし、亡郁子の死亡の結果を招いたと認められる。

3  被告渡邉の責任

本件事故について、被告松江が無過失とはいえないので、その余の点について判断するまでもなく、被告渡邉も免責されない。

二  損害

1  入院雑費 五二〇〇円(原告主張同額)

前記のとおり、亡郁子は、本件事故によつて、四日間入院したところ、一日当たりの雑費としては一三〇〇円が相当であるから、右記の金額となる。

2  入院付添費 一万八〇〇〇円(原告主張同額)

前記のとおり、亡郁子は、本件事故によつて、四日間入院したところ、甲一八からすると、付添看護を要したと認められ、原告賢司及び明美各本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、子である原告らが付き添つたことが認められるから、一日当たりの近親付添費としては四五〇〇円とするのが相当であり、右記の金額となる。

3  逸失利益 一一五〇万〇四四〇円(原告主張一四九六万一八三九円)

甲二一、二二、原告賢司及び明美各本人尋問の結果によると、亡郁子は、本件事故当時五九歳の健全な女性であり、飛田新地共同組合で事務員として勤務し、平成元年には年一八九万三〇〇〇円の収入を得ていたものであるが、そのかたわら、同居していた原告明美及び亡郁子方住居が手狭なため同居ができず、止むなく自宅の近隣で一人暮らしをしていた原告賢司の食事、洗濯等の世話を行い、家事労働にも従事していたと認められるから、亡郁子は、当裁判所に顕著な、平成二年賃金センサス産業計・企業規模計女子労働者学歴計五五歳から五九歳までの平均年収である二九〇万九〇〇〇円を、六七歳までの八年間得ることができたと推認でき、該当する新ホフマン係数(六・五八九)によつて中間利息を控除し、生活費の控除を四〇パーセントとすると(小数点以下切り捨て。以下も同じ。)、右記のとおりとなる。

4  亡郁子の慰藉料 一〇〇〇万円(原告ら主張同額)

本件事故態様等一切の事情を考慮すると、亡郁子を慰藉するには、右記金額が相当である。

5  原告らの固有の慰藉料 各五〇〇万円(原告ら主張同額)

本件事故態様、原告賢司及び原告明美各本人尋問の結果によつて認められる原告らと亡郁子の関係等一切の事情を考慮すると、原告らを慰藉するには、右記金額が相当である。

6  葬儀費用 原告ら各六〇万円(原告ら主張同額)

原告本人尋問の結果によると、原告らは、亡郁子の葬儀関係費用として一二〇万円以上を支払つたと認められるが、本件事故と相当因果関係があるのは、右記金額の範囲であると認められる。

三  相続

甲二、原告賢司及び原告明美本人尋問の結果によると、原告らは、亡郁子の子らであつて、他に相続人がいないと認められるから、原告らは、前記損害のうち、1ないし4の合計額二一五二万三六四〇円の二分の一である一〇七六万一八二〇円を相続したと認められ、5、6の固有の損害各五六〇万円を合計すると、原告らの各損害は一六三六万一八二〇円となる。

四  填補

前記の既払い金各原告あたり八五〇万七二〇〇円を控除すると、原告らの各損害は七八五万四六二〇円となる。

五  弁護士費用 原告ら各七八万円

各原告の認容額、本件訴訟の経緯等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、右記のとおりとなる。

六  結論

したがつて、原告らは、それぞれ、被告らに対し、各自八六三万四六二〇円及び内金七八五万四六二〇円に対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 水野有子)

別紙 〈省略〉

〈省略〉

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